今回のご依頼者様は奈良県大和郡山市で定年後に菜園を楽しまれているご夫婦。自宅近くの貸農園で野菜や果実を育てておられるのですが、水道が通っていない場所のため日々の水やりに苦労なされていました。水道の新設ともなれば多大な費用も発生する上に貸主に手続きの手間をかけることにも躊躇なされていました。実際の水やりはご自宅の水道からペットボトル30本に水を入れては車で農園へ運ぶという重労働。暖かくなってくるとこれが毎日だということですから、それはそれはもう大変です。井戸を掘ることも検討され業者とも相談されたらしいのですが、掘削機が入れるスペースが無いので断念されたとのことでしたが、このたびご縁あって当社にもご相談を頂戴した訳です。
スコップで手掘り
まずは可能なところまでスコップと抱きスコップで掘り進みます。また、比較的大きな石などは表面の浅いところにある事が多いのでスコップで可能な限り掘り始めることは重要です。
浅井戸の掘り方には大きく分けて三通り。「打ち込み式」「打ち抜き式」「掘り込み式」とあります。この土地にはどの掘り方が最適かつ的確かを手で掘りつつ、土の感触を確かめながら検討し決定します。
鋼管で下穴をあけます
1.5メートルの鋼管から入れて抜いて、次に2.5メートルを入れて抜いて次に3.5メートル、4メートル、5メートルと徐々に長い鋼管に入れ替えながら下穴をあけてゆきます。また、抜いた鋼管にはそれぞれの深さの土が詰まって上がってきますので、地層の確認も同時に行います。
電動ハンマーを使用するのですが、硬くてなかなか入らない場合は全体重をかけて鋼管を押し込んだり、さらに100Kg程度のオモリをぶら下げたりします。
5メートルの鉄パイプが地面下20センチまで入りました。
鋼管の引き抜き
これくらいの深さでも粘土質の場合、引き抜くためには1トン以上の力が必要になります。三脚のやぐらを組んで2トンのチェーンブロックで引き抜きます。
やぐらのきしむ音とともに鉄パイプが上がってきました。鉄パイプの中に詰まっている土をチェックし、水の出る層に到達したことを確認します。
井戸枠の打ち込み
鋼管で下穴をあけたところに井戸枠となる少し太めの塩ビ管を入れてゆきます。この塩ビ管には周辺から水を取込めるように小さな穴を無数に開けています。
下穴があるとはいえ井戸枠が簡単に入ってゆく訳ではありません。まず第一に鋼管の穴よりも塩ビ管の方が太いこと。あと土の圧力により下穴がすぐにふさがってくるからです。予定の深さまで塩ビ管を入れるため、掛谷(かけや)でひたすらに塩ビ管を打ち続けます。本当はフルパワーで打ち込みたいのですが、塩ビ管を破損させてしまう失敗を過去に何度も経験しました。ので、あまり力をこめずに、やんわりと叩き続けます。
打ち続けること4時間、ようやく予定の深さまで井戸枠が入りました。
取水管とポンプの設置
水を吸い上げるストローの役割を果たす取水管の先端にはフート弁(逆止弁、チャッキ弁)を取り付けます。これはイタリア製の鋳物でできた高精度な逆止弁です。この弁があることによって吸い上げた井戸水が再び下へ落ちることを防いでくれます。
当社オリジナルの鉄製架台の上に手押しポンプをセットします。こちらのポンプについては通称「ガチャポン」と呼ばれ、名古屋にある手押しポンプのオリジナル・トップメーカー 東邦工業（株）製のTB式共柄ポンプ32サイズを選択なされました。手押しポンプも国産、海外産問わず低価格から高価なものまで無数に販売されていますが、私は東邦工業製のポンプがやっぱり安心だと感じます。価格的には似たようなものでもっと安いのもありますが、精度やつくりが他社とはまったく違います。各種消耗品の部品供給体制が万全なことも考慮し、長く使用されるならTB式共柄ポンプのプラ玉、人工木台仕様が断然おすすめです。
井戸の完成
ようやく水が出ました。最初は砂まじりの茶色い水が出ます。「井戸洗い」と言いまして最初はひたすらポンプを漕いで水と砂と土を排出します。
2日後、かなり透明度が増してきて、水量も増えました。経験上おおよそ2週間くらいで無色透明の水になりますが、地域・地層によってはならないこともあります。ただそうだとしても飲用せず生活用水として使う水なのでまったく問題無いです。水温は年中10度少しで特に夏場は冷たくて気持ちいいです。
井戸のQ&A
